ある朝、妻が倒れた。
あれは5時ちょっと前だった。
我が家は4人家族で、私だけ別の部屋で寝ている。
真っ暗の中、ドアが開き
「助けて」
と妻が床を這って命からがら入ってきたのだ。
たぶん「助けて」と言っていたと記憶している。
これは救急車だなと思った。
私は職業柄、救急車を呼ぶように指示したり、もちろん自分で呼んだりもする。
プライベートの出かけ先でも、他人に異変があったりすると、連れの方に救急車を呼んだ方がいいですよ、と進言することもある。
医療従事者以外の人が救急車を呼ぶ判断など出来ないのだから、素人が「救急車を呼んだ方がいいかな」と頭をよぎったのなら、迷わず呼んだ方がいいと思う。それはそれだけ異常な事態だという可能性がある。
結果、呼ぶ必要がなかったとしても、それは結果論なのだ。後悔したくないなら、躊躇なく呼んだ方がいい。仮に呼ぶ必要がなく、救命救急士の方に「このくらいのことで」みたいな態度をされても。
ちなみに「ゴキブリが出たから」とか「タクシー代わりに」とかはもちろん論外だが。嘘のような話だが、本当にあるらしい。
しかし、妻は
「今日は(低学年の次女の)遠足がある。楽しみにしてるのに。お弁当はどうしよう」
「通学路の旗振り当番だ、どうしよう」
と息絶えそうな声で言っている。
しかし、「救急車を呼ぶよ」
と、私は救急車を呼んだ。
朝5時、近くに住む妻の実家に3、4回電話をかけるも電話に出ない。
私は救急車に乗ってしまうので、12歳の長女に
「遠足の弁当作れる?水筒も用意して」
「わかった!」
「通学路の旗振り、次の〇〇さんの家に行って、事情を話して頼んで」
「わかった!」
と、早朝この状況で狼狽えることなく、長女は一つ返事をする。
手前味噌だが、凄みを感じる。
そして誇りに思う。
これらを長女は完璧にこなした。そして、そのおかげで次女は楽しみにしていた遠足に行くことが出来た。
妻は自力では立てず、救急車にはハンモック式のタンカーで運ばれた。
救急車の中での妻の心拍数は30台前半。
私の安静時の心拍数は1分に60台から70台。いわゆる成人の平均である。妻はその半分以下になっていた。素人でもこれは異常だなと分かる。
病院に到着し、応急の検査が終わり、医師から説明を受ける。
通常の心拍の3回に1回しか正常に脈を打っていない。
「ペースメーカーをつけるかもしれない」
と説明をされた。そして即入院となったのだった。
(つづく)
【記事:芋太郎ブログ富土通(フドツウ)】